【#013】棚田典子さん

FJTA会員紹介リレー、第13回の紹介は棚田典子さんです。
それではよろしくお願いします。

わぁ、光栄です。
どうぞよろしくお願いします!

それでは早速、質問させていただきます。
タンゴ歴は何年ですか?

おかげさまでパートナー棚田晃吉とタンゴを始めて32年になります。
たくさんのご縁に感謝ばかりです。

おー、長いですね。
FJTA会員の中でもかなり長い方ではないでしょうか。

タンゴを始めたきっかけは何ですか?

一言でいうと、心惹かれたんです。タンゴに。
少し長くなりますが、大丈夫ですか?

もちろん大丈夫です、ぜひお願いします!

わたしは小さい頃から病弱で小児病棟のレギュラー選手だったんです。
でも踊ることが大好きで、起き上がれるときは何かに取り憑かれたようにガラスに自分を映して踊っていました。
神様はシンドイ身体と、踊りの中で生きる妄想力をくださったようです。

2歳くらいでバレエの先生が見つけてくださり、可愛いがってくださいました。
ジャズやコンテンポラリー、踊りは何でも楽しかったです。良い先生方にも恵まれました。

そうだったんですね。けなげな女の子が目に浮かびます。

踊りが助けてくれてましたね。
学校を卒業してからは、舞台の振り付けや演出、バレエやジャズダンスを教えたりもしました。
アングラ芝居の演出をしていたとき、役者だった棚田晃吉と知り合いました。
その頃は健康状態が悪くなっていて、踊りへの意欲より身体の辛さがどんどん増していっている時期でした。踊りの魅力が消えていって、人生はフェイドアウトに向かっているような気がしていました。
そんなとき、アルゼンチンタンゴと出会ったんです。
作り物でなく即興で生み出される二人の静かで柔らかいんだけれど力強い踊りを見て涙が溢れました。
どんな苦しみも悲しみも、この踊りのためならもっと与えられてもいい、そして、本当にこの踊りを踊るに値するものになりたい、そう感じました。

涙が溢れるような感動って、なかなかあるものではないですよね。
タンゴが心の奥底にある何かに触れたのでしょうね。

現在、タンゴについてどのような活動をされていますか?

主にレッスン、ショー、ミロンガをしています。
人と触れ合ってはいけないなんて、この数年は何て困難な時期だったか。
ようやくこの頃、コロナ前のように会いたい人に会いに行き、ハグできる明るさが戻りつつありますね。
私たちも国内外にレッスンやショーに行く予定や、スタジオでのレッスンやミロンガが以前のような状況に戻ってきました。
これからも、日本そしてアジアのタンゴの仲間たちを元気づけて、大人でエレガントなタンゴを、そして若手に楽しさを伝えていきたいなと思っています。

そうですね、かなり落ち着きましたよね。これからが楽しみですね。

タンゴにおける得意分野は何ですか?

ないですよ。私たちはきっと誰よりも不器用です。
ノリや調子よくやれない、だからきっと32年も学び続けているのだと思います。
私たちはミロンガで踊ることが好きです。質の良いあったかい大人の洒落たタンゴ文化が、競うタンゴ、振り付けの魅せるタンゴ、セラピーや癒し合うタンゴ、全てを抱き込んでもっともっと大きく豊かに成長していきますようにと願っています。
アルゼンチンでも古い私たちが😅 経験してきたこと、受け取ってきたこと、積み上げてきたことを次の世代に伝えていけたら幸せだなと思っています。

「ない」とあっさり言えちゃうところがすごいなと思いました(笑)それが結果的に強みになっていますね。

好きなタンゴの曲を教えてください。できれば3つまでお願いします。

長く踊ってきた人生の節々に、大好きな曲があります。だから選べないんですよね~。多すぎて。

ですよね~(笑)
ではそれはまたゆっくりということで、尊敬するタンゴダンサーを教えてもらえますか?

わたしは師は一生のものと思い、ずっと繋がっていたい方なんです。しつこいんです😅
たくさんの先生や先輩、キラキラの若いダンサーの皆さんも、わたしには先生です。
その中で3人を今日はあげさせていただきます。

まずは Vanina Bilous、わたしの指針でもあります。
Vanina と Roberto に”プグリエーセを踊る”ということを叩きこまれました。
ある時2週間の滞在で、毎回出の一歩で「No」と言われ続けました。そこから先にいかない。
辛かったですよ。泣けました。でも、今思えばよくぞ「No」と言ってくださった。感謝しかありません。おかげでその大切さが、プロタンゴ人生のベースとなりました。
本当は寂しがりやで傷つきやすい彼女がいつも明るく周りの人たちを励まし、明るく笑顔にする姿もわたしの心に強く刻まれています。

次に Osvaldo Zotto、われわれには憧れの兄のような存在です。互いの苦しい時もそばにいました。
リフト一つないタンゴの神々しさ、お調子良くない、静けさのある彼の美学、目に焼きついています。

最後に Carlos Gavito。
数ヶ月彼の助手をしていたとき、毎日「足をもっと集めろ」「軽々しく足を上げるな」と怒られました。「美しくない」と。
「集めてます!」「上げてません!」何度も言い合いました。
足を集める、そこにあるもの。それを教えてくれたのだと思います。

あ~悔しいけど、もう Gavito も Osvaldo もいないんです😭

踊りが魅力的というだけでなく、指導するときの姿勢、言葉が尊敬につながっているのでしょうね。
その時間、経験がかけがえのないものであることが伝わってきます。

確かにかけがえのないものですね。
その当時つらかった思い出もありますけどね😅

えっ、例えばどんな思い出があるんですか?

私たちのソロとしてのアルゼンチンデビューはAlmagroというミロンガで、Osvaldo Zotto に連れられて、まだ中高生くらいの Gabriel Missé と Geraldin Rojas のデモの前座でした。
ネガティブな私には「日本人の踊りなんか見たくないのよ」という無言の声が聞こえるような気がして…とてもこたえました😭

ビデオも写真もダメ、人のステップやポーズを誰の許可を得てやってるんだ、と言われたことも…
踊りたい曲は踊らせてもらえません。当時は大先輩方が何十年もその曲の代名詞のように踊り続けているわけですから。
ちゃんとあいさつをする、先生を裏切らない、彼らが大切に思うことを厳しくも愛を持って教えてくれました。

なるほどー、容赦とか遠慮がない感じですね。
ストレートでよいとも取れるのですが、強いメンタルが必要ですね(笑)
濃密な時間というのは、喜びも苦しみも混ぜ合わさってできているということなのでしょうか…

そうですね、つらいこともあったけど、学んだことはそれ以上にあります。
私たちが活動を始めた頃は、日本でタンゴを舞台で踊るダンサーもごく数組で、二十歳そこそこの私たちは先輩方に本当に可愛がっていただきました。
オルケスタティピカ東京などタンゴ史に残る名演奏家の皆さん、阿保郁夫さんをはじめ歌手の先生たちとたくさんの時間を過ごせた最後のジェネレーションです。
教えていただいたこと、お話を聞かせていただけたこと、私たちの財産です。
現地で映画エビータの撮影に携わったことも貴重な経験でした。

日本のタンゴも人から人へつながって今にいたるのですね。

良い時代を生きられたと思います。
それぞれの時代でよいところがありますよね。
今は毎年世界大会があり、いろいろな国でフェスティバルがあります。プグリエーセやピアソラの大曲を誰でも自由に踊ることができます。

たしかにそうですね。
自由になった今は、やはりプグリエーセを踊ることが多いですか?

いえ、私たちはその分敢えて軽めの曲やミロンガを踊ることが多いですね。観る方々には重い曲ばかりは辛いですからね。
プグリエーセやピアソラを踊ることもありますが、そのときは命を削ります。命を捧げると、不思議と新しいパワーが宿ります。でも、だからあまりたくさんは踊れないんです。

ミロンガで、賑やかで華やかな曲が続くときもやはり歳を感じます😭
耳も皮膚感も疲れてしまうんです。大人は大人のタンゴを踊らねばなりません。

今は、相手が自由に体を奏でられる上質な心地よいアブラッソで、静かに互いを与え感じ合え深まることができたら最高だなと思います。もう人生終わっても構わないと思うんです。

なるほどー、典子さんのタンゴ観は命との結びつきが強いですね。
繊細なのに、歳を感じることを変に隠そうとしないのは自然体で素敵なことだなと思いました。

今日は、なかなか聞くことのできない経験談などをありがとうございました。典子さんの人間愛とタンゴへの思いに触れられた気がします。
紹介リレーのバトンを渡す方はどなたにしますか?

憧れの中国パンダツアーを実現されたTakami先生にお願いしたいです。
いつもしなやかで美しいタンゴにウットリしてしまいます。

中国パンダツアー、憧れなんですね(笑)
わかりました、Takamiさんに依頼してみます。

最後に、読者の皆さまにメッセージを送りたいのですが、いいですか?

はい、もちろんです!
初めてのケースでおもしろいです。お願いします。

皆さま、わたしの話を聴いてくださりありがとうございました。
最後にもう一つ。夢は、80歳になって若い素敵なタンゴのバイラリンの皆さんに、心地よい静かなバースデー・ワルツをご一緒いただくこと。
果たしてその日が来るでしょうか。それまで頑張らなくては!ですね。
どうぞこれからも、タンゴの良い仲間でいてください。
恵比寿のスタジオ ラ・バルドッサにもぜひ遊びにいらしてくださいね!

ありがとうございました!


棚田典子さんの情報

https://tangoproject.jp

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